萩尾望都対談集『コトバのあなた マンガのわたし』

上に同じ。
野田 「本格的にやめようと思ったことは?」
萩尾 「それはないです。といっても『ポーの一族』を描いた時に、読者の評判がよくなかったわけです。無反応っていうんじゃなくって、読者の文句がいっぱい来たっていうか。それで、自分は漫画家に向いてないんじゃないかと思ったことはあります」
野田 「それは、かなりマニアの読者?」
萩尾 「そう、昔からの」
野田 「それは誰にでもありますよ。つまりメジャーになってくると、客のほうがついてこられないんですよね」
(中略)
野田 「でも、それはすぐに直りますよ。結局、お客さんにとっては一種の愛情関係がある。独占欲があるでしょ。子供と母親の関係みたいなもんでしょ」
萩尾 「ああ、だんだん広まっていくと、自分のものをとられたような気になって」
野田 「うん、うん。そういう時は、客に一回乳離れさせてやらないと、いいものは観れなくなりますよ、お客さんにとっても」
(中略)
野田 「結局それはさっき言ったように、表現者と客の関係っていうのは、いちばん最初の出会いっていうのが一つの感動ではあるけど、いつまでもそれにばっかり固執していると、観客のほうは損をするわけです。だから、二つめの喜びは、その表現者がその後どうなるかを楽しめばいいわけですよね」
萩尾 「最初の読者がいつまでも同じ期待を持っていて、漫画家もそれだけに応えていいんであれば、お互いのために幸福なんだと思うけど、やっぱり自分の世界もどんどん変わってくるし、年もとるし、掘り下げも進むし。だから、変わってくるのは普通のことなんですよね。でも洋の東西を問わず、読者は自分の固定したイメージにこだわるようですよ」
長くなっちゃった。野田はもちろん野田秀樹