NHKBShi 『坂の上の雲』#7 “子規、逝く” 17:30〜19:00

子規(香川照之)の死の時のあれこれを、大げさにせずほぼ原作通りに描いてくれたのが良かった。特に虚子(森脇史登)。

月明の下で、虚子はいそがしく下駄音をたてた。碧梧桐と鼠骨に子規の死をしらせおわると、虚子はひきかえした。
(中略)
右手が竹垣だが、左手は加賀屋敷の黒板塀がつづいている。月の光は、その板塀いっぱいにあたっていて、その板塀だけをみていると、夜ともおもえぬほどにあかるかった。
その板塀のあかるさのなかを、何物かが動いて流れてゆくような気が、一瞬した。子規居士の霊だと、虚子はおもった。霊がいま空中へあがりつつあるのであろう。
子規逝くや十七日の月明に
と、虚子が口ずさんだのは、このときであった。即興だが、こしらえごとでなく、子規がその文学的生命をかけてやかましくいった写生を虚子はいまおこなったつもりだった。

司馬遼太郎坂の上の雲』2巻(文藝春秋)より抜粋

真之(本木雅弘)が子規の葬列を見送るシーンも同様。

そのまま、立っている。葬列は進んでゆくのだが、ついてゆこうとしない。
葬列がすぎ去ったあと、人気のない路地で真之だけが立っていた。
(升さん、人はみな死ぬのだ)
おれもいずれは死ぬ、ということを、つぶやいた。真之にすれば、それがかれの念仏のつもりであった。

司馬遼太郎坂の上の雲』2巻(文藝春秋)より抜粋


どっかのばばあが「子規との文学的繋がりを考えると真之よりよほど漱石のほうが深いつきあいなのに、2部にまったく漱石が登場しないのはおかしい」と書いていた。うん、原作にもこの頃はほとんど登場しないんでね(苦笑)。もちろんロンドン留学の前に子規に会ってから旅立ってますけど。あくまでもこれは真之と好古と子規の物語。それ念頭に置いとけや。そんなに子規と漱石に親しみたいなら『漱石・子規往復書簡集』(岩波文庫)でも読んどけや。

漱石の子規追悼の句  「霧黄なる市に動くや影法師」


真之と律(菅野美穂)と季子(石原さとみ)のあわやの場面はドラマオリジナル。真之と季子の出会いもね。至極民放的だけど、この程度の華やぎは必要です。さとみちゃんはこういう雰囲気の役も実に良い。