最近では『船中八策』の存在自体がが疑われてますけど、それはちょっと置いといて。
龍馬(福山雅治)が、中岡(上川隆也)に対して条文を読んで、横井小楠・吉田東洋・高杉晋作・武市半平太・勝海舟・久坂玄瑞・河田小龍の名前を挙げてくシーンは良かった。龍馬が出会ってきた人々の想いの集大成というのがわかりやすく伝わったと思います。こういうの小出しにしてくれれば龍馬の思想の唐突感が拭えるのになあ。でもまあ、今までそうしなかったのは今回の演出のためだということにしときましょうか(爆)。
もともと竜馬の大政奉還案というのは、一種の魔術性をもっていた。討幕派にも佐幕派にも都合よく理解されることができる。たとえば後藤象二郎が理解したのは「徳川家のためにもなり天朝の御為にもなる」という矛盾統一の案、ということであった。この点、勤王か佐幕かの矛盾になやむ山内容堂にとってはこれほどありがたい案はない。
一方、中岡のような討幕急進派にとっても、大政奉還の気球をあげることによって、合法的に討幕兵力を京に集中できるのである。
要するに、政治がもつ魔術性をこれほどみごとに帯びている案はないであろう。
(中略)
一服の薬にたとえると、一方の患者には下し薬として与え、一方の患者には逆に下痢どめとしてあたえた。しかもそれを処方した医師竜馬としては、
「双方、快癒する」
という見込みをもっていた。まったく中岡のいうとおり「稀世の」妙薬にちがいない。
それに中岡が昂奮したのは、この案の提議によって土佐が一躍時勢の主流におどり出るということであった。