- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
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『竜馬がゆく』の登場人物総数を調べたのは、作家・出久根達郎氏である。上下5人の誤差はあっても、1,149人。さらに出久根氏は『坂の上の雲』の全登場人物を1,087人と数え上げている。
出久根氏に倣って、『関ヶ原』に出てくる人物名を数えてみたら、実在した人物と司馬さんが創作した人物を合わせて、613人。このうち、開巻冒頭に出てくる、『北回帰線』の作家ヘンリー・ミラーといった関ヶ原の役前後から遠い時代の人物は18人。この数を引いた595人(斎藤道三や織田信長等を含む)のうち、北政所、淀殿や、石田三成を愛した「初芽」など女性は35人だった。
『関ヶ原』は「週刊サンケイ」に昭和39年7月27日号から昭和41年8月8日号にかけて連載された。司馬さんはその連載予告に、『関ヶ原』への思いを率直に表明している。
「その場を見たいがために、年若いころから関ヶ原へ行ったことは何度かある。…が、、小説に書こうとは思わなかった」「小説にするには、あまりにも事件の舞台が多種多様で、登場人物が多すぎる。……」
しかし、昭和35年の晩秋、「近代説話」同人が寒風吹く関ヶ原に旅行した際、司馬さんが「手拭いで頬かぶりをして」、「当時の戦況を、まさに手に取る如く説明してくれた」ことを、尾崎秀樹氏や清水正二郎(胡桃沢耕史)氏が回想している。だから、少なくとも連載開始の4年前には、関ヶ原の戦いの全容が、司馬さんの頭の中に収められていたのだろう。関ヶ原の役を焦点に、主だった人物だけでも約520人を進退させる小説を書くことは大変な難事だったと想像する。けれども読者は、まるで自分が天上から16万以上の将兵を動かしているような快感を覚えてゆく。