『當る卯歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』夜の部@京都四條南座(16:15〜) 3F-7-2


歌舞伎十八番の内 外郎売 大薩摩連中
曽我五郎:愛之助/小林舞鶴:孝太郎/小林朝比奈:猿弥/大磯の虎:笑三郎化粧坂少将:春猿/梶原景高:薪車/梶原景時:寿猿/茶道珍斎:市蔵/工藤祐経段四郎/他

拙者親方と申すは、御立会の内に御存知の御方も御座りましょうが、御江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町を御過ぎなされて、青物町を上りへ御出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今では剃髪致して圓斎と名乗りまする。
元朝より大晦日まで御手に入れまする此の薬は、昔、珍の国の唐人外郎と云う人、我が朝へ来たり。帝へ参内の折から此の薬を深く込め置き、用うる時は一粒ずつ冠の隙間より取り出だす。依ってその名を帝より「透頂香」と賜る。
即ち文字には頂き・透く・香と書いて透頂香と申す。只今では此の薬、殊の外、世上に広まり、方々に偽看板を出だし、イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと色々に申せども、平仮名を以って「ういろう」と記せしは親方圓斎ばかり。もしや御立会の内に、熱海か塔ノ沢へ湯治に御出でなさるるか、又は伊勢御参宮の折からは、必ず門違いなされまするな。御上りなれば右の方、御下りなれば左側、八方が八つ棟、面が三つ棟、玉堂造、破風には菊に桐の薹の御紋を御赦免あって、系図正しき薬で御座る。
イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、御存知無い方には正真の胡椒の丸呑み、白河夜船、されば一粒食べ掛けて、その気味合いを御目に掛けましょう。先ず此の薬を斯様に一粒舌の上に乗せまして、腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬわ、胃・心・肺・肝が健やかに成りて、薫風喉より来たり、口中微涼を生ずるが如し。魚・鳥・茸・麺類の食い合わせ、その他万病即効在る事神の如し。さて此の薬、第一の奇妙には、舌の廻る事が銭ごまが裸足で逃げる。ヒョッと舌が廻り出すと矢も盾も堪らぬじゃ。
そりゃそりゃそらそりゃ、廻って来たわ、廻って来るわ。アワヤ喉、サタラナ舌にカ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重。開合爽やかに、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲ。一つへぎへぎ、へぎ干し・はじかみ、盆豆・盆米・盆牛蒡、摘蓼・摘豆・摘山椒。書写山の社僧正、小米の生噛み、小米の生噛み、こん小米のこ生噛み。繻子・緋繻子、繻子・繻珍。親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親嘉兵衛・子嘉兵衛、子嘉兵衛・親嘉兵衛。古栗の木の古切り口。雨合羽か番合羽か。貴様が脚絆も革脚絆、我等が脚絆も革脚絆。尻革袴のしっ綻びを、三針針長にちょと縫うて、縫うてちょとぶん出せ。河原撫子・野石竹。野良如来、野良如来、三野良如来六野如来。一寸先の御小仏に御蹴躓きゃるな、細溝にどじょにょろり。京の生鱈、奈良生真名鰹、ちょと四五貫目。御茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ。茶立ちょ、青竹茶筅で御茶ちゃっと立ちゃ。
来るは来るは何が来る、高野の山の御柿小僧、狸百匹、箸百膳、天目百杯、棒八百本。武具、馬具、武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具。菊、栗、菊栗、三菊栗、合わせて菊栗、六菊栗。麦、塵、麦塵、三麦塵、合わせて麦塵、六麦塵。あの長押の長薙刀は誰が長薙刀ぞ。向こうの胡麻殻は荏の胡麻殻か真胡麻殻か、あれこそ本の真胡麻殻。がらぴぃがらぴぃ風車。起きゃがれ子法師、起きゃがれ小法師、昨夜も溢してまた溢した。たぁぷぽぽ、たぁぷぽぽ、ちりからちりから、つったっぽ、たっぽたっぽ一丁蛸。落ちたら煮て食お、煮ても焼いても食われぬ物は、五徳・鉄灸、金熊童子に、石熊・石持・虎熊・虎鱚。中でも東寺の羅生門には、茨木童子が腕栗五合掴んでおむしゃる、彼の頼光の膝元去らず。鮒・金柑・椎茸・定めて後段な、蕎麦切り・素麺、饂飩か愚鈍な小新発知。小棚の小下の小桶に小味噌が小有るぞ、小杓子小持って小掬って小寄こせ。おっと合点だ、心得田圃の川崎・神奈川・程ヶ谷・戸塚は走って行けば、灸を擦り剥く。三里ばかりか、藤沢・平塚・大磯がしや、小磯の宿を七つ起きして、早天早々、相州小田原、透頂香。
隠れ御座らぬ貴賎群衆の、花の御江戸の花ういろう。アレあの花を見て、御心を御和らぎやと言う、産子・這子に至るまで、此の外郎の御評判、御存じ無いとは申されまいまいつぶり、角出せ棒出せぼうぼう眉に、臼杵擂鉢ばちばちぐわらぐわらぐわらと、羽目を外して今日御出での何れ様にも、上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っ張り、東方世界の薬の元締、薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って外郎はいらっしゃいませぬか。

曽我五郎の口上部分。「そりゃそりゃ〜」から早口です。本によって多少言い回しが違うらしいけどだいたいこんな感じ。愛之助さんも歌舞伎役者ですから、代役で初役といってもまったくのまっさらじゃないとは思うんですよ。過去にちょっと練習したこともあるんじゃないかと。でも観客の前で披露するとなると話が違う。練習期間は最大でも4日。口上だけでなく他の段取りもありますから……。愛之助さんはよく通る良い声でよどみなく述べ立てていらっしゃいました。歌舞伎役者の凄さをあらためて実感。そういや3年前の時は、ひと晩で『鳴神』覚えたのよね。公演途中の代役で翌日に間に合わせるために、怪我した海老蔵が夜通しつきっきりで伝授。今回はおそらく映像だけだったかと。


仮名手本忠臣蔵 七段目 祗園一力茶屋の場
大星由良之助:吉右衛門/遊女おかる:玉三郎/竹森喜多八:歌昇/大星力弥:種之助/矢間重太郎:種太郎/赤垣源蔵:歌六/寺岡平右衛門:仁左衛門/他
鉄板の安心感で観れるかと思いきや、仲居と太鼓持たちの“見立て”でちょっともたつきが。手拍子が途中で裏と表に分かれて一旦止まっちゃうという(笑)。まあすぐに合わせましたけど。
平右衛門がおかるに斬りかかった後のくだりは、仁左玉ならではの呼吸とキャラ立ち。大向こうさんもここぞとばかりに「ご両人!」。


心中天網島 玩辞楼十二曲の内 河庄
紙屋治兵衛:藤十郎/紀の国屋小春:扇雀/丁稚三五郎:翫雀/河内屋お庄:竹三郎/粉屋孫右衛門:段四郎/他
お初演目でした。たぶん映像でも観てない。
上方狂言というのは上方なまりの台詞の可笑しみとテンポがあってこそ、悲喜劇が際立つと思っております。堪能いたしました。笑いどころも多いんだけど、耐える小春、孫右衛門の配慮、それぞれの悲しみもさることながら、ひとり何も知らない治兵衛の哀れや如何に。
段四郎さんの台詞で少々あやしい部分がありました。5月の御園座の時もそうだったのよね。やっぱ寄る年波には勝てないのかな。


鳥辺山心中
菊地半九郎:梅玉/若松屋遊女お染:芝雀/坂田源三郎:玉太郎改め松江/半九郎若党八介:薪車/お染父与兵衛:寿猿/仲居お雪:歌江/坂田市之助:歌六/若松屋遊女お花:魁春/他
演目終了が午後10時15分。名古屋方面新幹線最終は午後10時45分。無理っす。途中退席も失礼なので『河庄』終了後に劇場を出る。
実はこれ、3年前の松竹座の海老蔵怪我休演の時に愛之助さんの半九郎で観てるのよね。代役じゃなくてもともと愛之助さんだったんだけど。おかげで全演目にご出演になりましたよ(爆)。


越後獅子
角兵衛獅子:翫雀
演目終了が午後10時40分。名古屋方面新幹線最終は午後10時45分。どう考えても無理っす。
これも、4年前の御園座三津五郎さんで観てる。戦後から今まで主だった劇場で15回しか演じられてないのにね。今回観たら15回のうちの2回て結構な確率(笑)。