武田泰淳『貴族の階段』

貴族の階段 (岩波現代文庫)

貴族の階段 (岩波現代文庫)

クライマックスは二・二六事件。てなわけで、2月26日には読み終わってたけど、なんせ当日は頼長まつりでわっしょーい。録画リピと感想記事で忙しかったので、本日の記事と相成りました。

ニ・二六事件を背景に、貴族と軍人との暗闘を女性の視点から鮮やかに描く作品。公爵西の丸秀彦の娘氷見子は、父と来訪者の会話の秘密の記録係であり、青年将校の水面下の動きを知る。その蹶起に加わる兄義人、義人に思いを寄せる陸軍大臣の娘節子、節子と人知れぬ関係をもつ父秀彦…。事件への緊迫感のなかで各人の人生が複雑にからむ。

エスあり近親相姦あり不倫あり。前半は淡い桜色の、ワンシーンワンシーンが一枚の絵の様な乙女小説全開ながら、後半は事件前夜〜当日と一気に総天然色、『仁義なき戦い』の如くの手振れ映像の怒涛の展開。そして事後の虚無と無常。死して何事かを成そうとする男たちを冷静に見つめてきた氷見子にとって、二・二六事件は彼女が大人になるためのひとつのステップにすぎなかったのかと。
血生臭いクーデターを、17歳の女学生の成長のための舞台にしてしまう武田泰淳はさすがでございます。氷見子が古い古い貴族の血を受け継いでるからこそ成り立つ筋立てでしょう。
ちなみに氷見子の父・西の丸秀彦のモデルは近衛文麿だそうで。五摂家の一つ、近衛家の第30代当主。近衛家藤原忠通の息子・基実が始祖。何気に今年の大河に繋がったわ。偶然だけど(爆)。