劇団☆新感線2012年春興行 いのうえ歌舞伎『シレンとラギ』@梅田芸術劇場メインホール(13:00〜) 1F-5-32・33

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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:藤原竜也永作博美高橋克実三宅弘城北村有起哉石橋杏奈橋本じゅん/高田聖子/粟根まこと古田新太/右近健一/河野まさと/逆木圭一郎/村木よし子/インディ高橋/山本カナコ/礒野慎吾/吉田メタル/中谷さとみ/保坂エマ/村木仁/川原正嗣/他

どこかの国のもうひとつの太平記、と思いきやオイディプス王だったという。まー巧いことぶっこんで構成的には流石だなあと感心しきり。ただ、テーマ的に弱かったというか圧倒的な無条件の悪の存在がなくて、いつも見られるケレン味もなくちょっと物足りなかった気がします。キョウゴク(古田新太)にその絶対的悪の部分をもう少し負わせてもよかったのかも。シレン永作博美)とラギ(藤原竜也)の壮絶な宿命に対するには、なし崩し的な因果から生まれたキョウゴクの悪はそりゃ弱くなるでしょう。キョウゴクを倒した達成感、いや昇華……ああ、カタルシスだ。うん、カタルシスが足らないんですよ。
ゴダイ(高橋克実)の存在があまりにも大きかったのかな。カッツミー良かったのよー。邪教の教祖として男として父として、実に大きく愛溢れる人物。ゴダイの愛は相当捻くれてて理解しにくいけどね。シレンへの愛はもちろん息子・ラギへの愛も。自分を殺させ、教団を継がせることのどこが愛だっつーことですが、あのままではラギは死んだも同然。どういう形であれ、ラギを生かした、という厳しくもあたたかい父性愛です。それしか手がなかったといえばそれまででしょうけど(爆)。2幕冒頭で舞台上からは消えてしまうゴダイ。でもその余韻は終幕まで残ってました。カッツミーに拍手。
この大きな愛に対峙しなければならないキョウゴクは大変。まあ、そこは古田新太ですからね、キャラにブレがあるはずなのにブレてないように見えたし(素晴らし)、相変わらずの殺陣の凄さったらもう。勝てるわけねーじゃん的なね。だからそれくらいの強さをキャラにも持たせてほしかったなと。久々の殺陣を堪能できたのには超感謝。古田さんのね、鞘から刀をゆるりと抜くのが好きです(そこか)。あと、今回初めて見た(と思う)のが、笄らしきもので、刀の束巻を調正してたというかいじってたとこ。芸が細かいわ。
そしてじゅんさん。じゅんさんじゅんさんじゅんさん(嬉)。古田さんに絡む絡む絡む(嬉×2)。ある意味マジで絡みまくる(笑)。シリアス場面が徐々に増える後半に至っても、これぞザ・新感線な絡みっぷりで、誰か止めろいや誰も止めれん止めるにゃ殺すしかない的な(苦笑)。もっと観ていたかったなー。五右衛門3では最後までがっつり背中合わせで戦う盟友ポジで観たいなー。
今回の特筆すべき点は、あれだけ使いまくってたLEDスクリーンがほんの少しだったこと*1。あれはあれで利点はあるのだろうけれど、やっぱ書き割りとか回り舞台とか、立体的なものを巧く緻密に楽しく(笑)操ってこそ新感線だと思うのです。で、久々にそれを観ました。2幕最初の方で、10秒もかからずに1幕のラストシーンに転換。いわゆる回想シーン*2。無機質な白と黒の教団のシーンから、桜舞散る宴の中の親殺しへのフラッシュバック。お見事。
んなとこかな。
て、いかんいかん。メイン2人のこと書いちょらん。藤原君はキャラ設定としては弱いけど、ギリシャ悲劇的に苦悩しまくる美青年つーのはぴったりでしたわ。今回気づいたけど(遅すぎる)実に演劇的美声の持ち主でセクシーで。あんな声で耳元で囁かれた日にゃああた。「俺が変える。あなたの世界を」って真正面から言われた日にゃああた(莫迦)。
で言われた永作羨ましー。じゃなくて、彼女はやっぱ映像向きかな。『雨』の時はさほど思わなかったけど、台詞がちょっとキツそうに感じました。でも、暗殺者として強く厳しく毅然とした中に垣間見える、可愛らしさと美しさには、ずっと年下のラギに「俺が変える」って言わせるくらいの説得力が十分にありましたね。
北村君はホントもったいなかったなあ。なにがどうってとにかくもったいない(爆)。それを思えば三宅さんはまだ良かったのかも。無邪気な、無邪気過ぎるギセン。王さまが嫌いで虫が大好きで強くなりたくって……騙されて母親を殺してしまっても「標本にする」と。大事なものは虫、大好きなものは虫。だから「標本にする」。うるうるしちゃったよ。あそこで笑ったヤツいっぺん死んでこい。
石橋杏奈は、私この子嫌いじゃないんですけど、やっぱ舞台はまだまだ。ミサギはまあいてもいなくてもな感だけど、じゃあいなかったらキョウゴクの感情はどう持ってくんだ、てなことになっちゃうわけで………いや、ミサギを物語にぶっこむことでキョウゴクのようわからん想いが作られたんか?。と思ってしまったのは、どう考えても彼女が藤原君のバーターなもんですから。ファンの方すいません(汗)。
カタルシスが足りないと冒頭に書きました。観劇後、パンフのかずきさんの言葉を読んで、あえてあのラストだったのだなと納得はできないまでも理解はできます。そうしたいと思った気持も否定することはできません。去年のあの日以降に同じようことはたくさんありましたから。でもそこを越えて本来の新感線の持ち味で魅せて欲しかったなと。


余話。シレンは狼蘭族として登場。サジ(堺雅人)引っ張ってきて、スピンオフというかアナザーストーリー作って欲しいな。そのあかつきには刀衣(早乙女太一)ももれなくお願いします。


http://www.shiren-to-ragi.com/

*1:髑髏城でもう減ってたかな。

*2:+2幕目始まるまでの間の出来事。