NHKBSプレミアム 『坂の上の雲』#12 “敵艦見ゆ” 18:00〜19:30

あらま水師営すっとばし。原作で1章60pほど割いてるのに。他にも色々カット。明石の大諜報活動とバルチック艦隊の航海日記(違)が省かれるであろうというのは、前回書きましたが。真之(本木雅弘)の“七段構えの戦法”って出てきましたっけ?。あれ無いと真之が間抜けみたいなんですが(汗)。児玉(高橋英樹)でさえ情報の軽視。彼の判断力低下は旅順攻囲戦で疲れ果ててたってフォローしてくれ。まあ、一番の問題は尺ですな。大河の黒歴史のツートップ『天地人』や『江』の予算を全部こっちに回して(それでも足らんかも)、1年、いやせめて半年やれたらよかったのになあ。
でも、映像化は単純に嬉しいですよホントに。司馬さんは天国でどう思ってるかは置いといて(苦笑)。
話は本編からちょっとはずれます。『坂の上の雲』に限らず、日清・日露戦争付近の作品でいつも思い出すのが『あゝ野麦峠』。とにかく金がない明治の日本。生糸の生産は、当時の輸出総額の3分の1を支えておりました。

それにしても日本海軍はどういう手品を使ってこのような強力な大艦隊と、新兵器を手に入れたのであろうか?。国家予算は取っても、国際収支のバランスを無視して軍艦建造は不可能である。ましてやそれが輸入品であってみれば<外貨>がなくては入手できるはずはなかった。これが経済の原則である。
それをわれわれは小学校で大和魂だと教えられた。しかし大和魂で戦争に勝てるものなら、ガダルカナル島でも沖縄でも負けるはずはなかったであろう。
(中略)
日露戦争が始まった時には、東郷大将き下の日本の連合艦隊は(中略)日清戦争当時と比較すると四倍、露国東洋艦隊の総排水量19万2000トンをも大きくひきはなした。
これは日清戦争後、ロシアとの緊迫する情勢の中に生まれた「六六艦隊」といわれる第一期、第二期、第三期の建艦計画、総経費3億2800万円によって生まれたものであるが、これらの数字がどれほどの巨額であったかは、当時(明治28年)日本の輸出総額が、年間1億3600万円であったことと比較すれば、すぐ解るであろう。
(中略)
しかし戦勝に酔った国民はそれを買った「銭」がどこからきたの考える余裕はなかった。
「川に水がなくなればダンナが水車に入って回し」「素ワラジで雪の峠を越えて来た女たちのくちべらしの働き」や「一年働いてたった上バキ一足の報酬」の集積によって生まれた「生糸の経済力」であることに気づく者はほとんど少なかった。
(中略)
H・G・ウェルズの名著『世界文化史概論』には、
日本国民はおどろくべき力と英知をもって、その文明と制度をヨーロッパ諸国の水準にまで到達せしめようと努力した。人類の歴史において、この時点(明治)に日本がなしたほどの長足の進歩をなした国民はどこにもない。……かくしてアジアは絶望的にヨーロッパに立ちおくれてどうしても取り返しつかぬという考え方を、日本は完全に吹っとばした。日本は帝政ロシアとの戦争でアジア史に一エポックをつくり、ヨーロッパの尊大と思い上りに終止符をうった
と書いている。
しかしそのため「湖水へとびこむ工女の亡骸で諏訪湖が浅くなった」と後日演説してセンセーションを巻き起こす学者(福田徳三博士)も現れたりした。
全国津々浦々がこの爆発的な戦勝ムードにわき返る日、野麦峠のお助け茶屋にも、だれがニュースをもたらしたものか、低いカヤ葺きの軒下に小さい貧相な日の丸が一本立っていた。
その日の丸は、鬼婆さがウス汚れた和紙に梅漬けの赤で染めたものだったという。それが軍艦だけは世界一で戦争には勝ったとはいえ、あい変わらず貧しい庶民たちの精一杯な表現だったのである。

山本茂実あゝ野麦峠』(角川文庫)より抜粋

そういえば宮古島の人々のエピもスルー。司馬さんは1章20pほどで書いてますが、内容的には1話分つくれそうなボリューム。原作抜粋は長すぎるので下記参照。“フィクション”と銘打ってあるものの、こういうことがあったのは事実ですから。
バルチック艦隊に遭遇した男
http://yaeyamanow.nanpusya.com/history23.html
http://yaeyamanow.nanpusya.com/history24.html
=日本海海戦秘話=宮古の海人久松五勇士
http://yaeyamanow.nanpusya.com/history25.html
http://yaeyamanow.nanpusya.com/history26.html
http://yaeyamanow.nanpusya.com/history27.html
彼らも健気で貧しい庶民。